『カイト』をゆるっと考察 [いつか夢見た青い空へ 全ての人に贈る静かなる応援歌]

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概要

カイト

作詞:米津玄師

作曲:米津玄師

2020年7月に発売された58枚目のシングル

NHK2020ソング

 

 

歌詞解釈

小さな頃 青い空に高く飛んでいくカイトを見ていた

その頃の僕はそれを離さないように

糸をぎゅっと強く握りしめることしか出来なかった

憧れている未来は まだ届かない一番星の側にあって

僕はそこから見える景色は一体何なのか ずっと知りたかったんだ

 

その未来への道中で母は「泣いてしまうほど頑張らなくていい」と言った

父は「辛かったら逃げていいんだ」と言った

でもそんなことを言われる程に僕の夢は大きくなって

あの青い空がどんなに素晴らしいものなのか知りたくなってしまうんだ

 

風と共に歌が流れる そうしたら空の彼方へ向けて口遊もう

君の夢が叶いますようにと願おう ほら 声が溢れ出すんだ

 

小さな頃に見た 大きな羽のカイトは

あの頃見たものよりとても古くて 小さかったんだ

憧れていた未来は この服の右のポケットに

これまでの軌跡と一緒に 大切に仕舞ってあるんだ

 

その軌跡の中で友人は「君の努力を忘れるわけない」と言った

貴方は「頑張る君の人生が大好き」と言った

僕が負った小さな傷の一つ一つに皆の想いが宿っている

その想いがほら 耳をすませばどこからか聞こえてくるんだ

 

風と共に歌が流れる そうしたら空の彼方へ向けて口遊もう

君の夢が叶いますようにと願おう ほら 声が溢れ出すんだ

 

様々な逆境の中を小さなカイトが飛んでいく

悲しかったことも辛かったことも越えてどこまでも飛んでいこう

そして その糸を手繰り寄せて元の場所に帰ろうよ

 

風と共に歌が流れる そうしたら空の彼方へ向けて口遊もう

君の夢が叶いますようにと願おう ほら 声が溢れ出すんだ

 

考察

 幼少期に夢見た舞台に上がるまでの主人公の物語を書き綴る曲でしょうか。オリンピックのテーマソングなのでオリンピックを目指すアスリートを描いたと捉えられると思いますが、どんな分野にも当てはまる普遍的な応援曲になっていると思います。

 表題にもなっている『カイト』は世界と戦う未来の自分なのでしょう。もしくは、テレビの向こうで活躍するトップアスリートに未来の自分を重ねているのかもしれません。そしてそのカイトが飛んでいく青い空が夢の舞台、オリンピックの舞台の、その一番高い場所(≒一番星の側)なのでしょう。

 1番でそのカイトの糸を握りしめているのがまだ何者でもない今の自分だと思われます。自分もいつかオリンピックの一番高いところに飛んでいきたいと強く願っています。その夢を追いかける道中、主人公は何度も躓き、心を折られてしまいます。しかし、それを支える家族は励ましの言葉をかけません。泣くほど頑張らなくていいんだよ、辛かったら逃げていいんだよと声をかけるのです。ここが何とも「今」っぽいというか、令和の価値観だなって思いますね。いや、もしかして「スポーツじゃなくたって生きていけるじゃないか」というダイバーシティの裏側にある、一種の諦めみたいなものもあるのかもしれません。それでも主人公は、そんな挫折を味わう度に「この苦しみの先にある夢を見たい」とさらに強く願うことになります。

 サビでは一転して、主語が主人公ではなく別視点になっているように感じます。それはこの曲を歌う嵐かもしれませんし、応援しているサポーターやファン、恩師、家族、友人かもしれません。そしてこの曲の主人公だけではなく、数多の夢を追いかける若人に向けた歌声に聞こえます。テレビの中継に向かって「頑張れ!頑張れ!」と声をかけているような、そんな気持ちになります。

 そして2番では、成長した主人公が描かれます。幼き日に見たカイトは、その頃より小さくなっているように見えています。それくらい今(未来)の自分は大きくなったということなのでしょう。そして主人公の意識は、夢の中に在った古いカイトから、自らの力で飛ぶ新たなカイトに成長したのです。一番星の側にあるはずの未来は、自分のこれまでの血と汗の滲む努力と共に、ついに自分の右ポケットに収まるようになりました。主人公の望む未来は、一番星の側まで行かなければ手に入らなかったものではなく、自分のもとへ手繰り寄せるものだったのではないでしょうか。

 夢の舞台を手に入れた主人公の回りは、家族から仲間・友人へ輪が広がっていきます。友人はもしかして、代表選考に落ちた主人公に「君の努力は無駄じゃない」と言ったかもしれません。代表に内定した主人公に「君の努力は無駄じゃなかったんだ、私はその努力で出来た人生が好きだよ」と言ったかもしれません。「忘れない」と「愛してる」にはいろいろな解釈が出来ると思います。そんな主人公に幾つも出来た生傷や見えない傷には、そんな仲間や友人の想いも共に刻まれているのでしょう。

 1番2番を経た大サビでは、主人公の道中をカイトで表現しています。ここに出てくるカイトは「小さなカイト」です。あの頃は大きく見えていた憧れのカイトは、自分の意志で飛んでいける小さなカイトになって、荒れ狂う嵐という人生を飛んでいきます。どんなに前に進んでも大丈夫。だって、君のカイトには元の場所に帰るための糸があるんだから。そして、カイトをキラキラした目で見つめながら、その糸をぎゅっと握りしめている子がきっといるのだから。

 

 さて、ここまではアスリートを始めとする全ての人々に向けた応援歌という視点で見てきましたが、ここからは「米津玄師が嵐に書き下ろした」という視点から少しだけ見ていきたいと思います。端的な言えば普遍的な応援歌である『カイト』。つまりこれは例外なく嵐にも当てはまると思うのです。

 特に注目すべき点は「嵐」というワードが出てくる大サビ。この曲が発表された2019年末の紅白歌合戦の嵐は、活動休止まであと1年というタイミングでした。これを踏まえると歌詞中の「小さなカイト」の意味合いが変わってくるように思えます。彼らはあと1年で、嵐という大きくなったカイトから各々の小さなカイトに乗り換えるのです。嵐から離れなければいけないという悲しみを越えて、彼らは芸能界の荒れた空を飛び続けます。しかしどんなに飛んでも、そのカイトの糸は嵐に繋がっているのです。その糸を切ってしまえば、もしかしてもっと高く飛べるかもしれない。もっと違う世界に行けるかもしれない。それでも彼らは嵐に繋がり続けることを選んでいるように思えます。2021年の彼らの動向が何よりの証拠でしょう。『カイト』はこの時期の嵐だからこそ歌える曲でもあるように思えます。

 

参考サイト

カイト|嵐|J Storm OFFICIAL SITE